1.めっきとは
1-1. めっきの起源
めっきの起源は、紀元前1500年ごろメソポタミア北部で鉄器に溶融すずめっきが、その後水銀に金等を溶かし水銀アマルガムとして装飾品・仏像等に塗り焼くことにより液体の水銀だけを蒸発させ金めっきを行う方法が、古代エジプト、アラビア、ヨーロッパへ、また、東洋では、中国、朝鮮半島、日本へと伝わったとされています。
日本では東大寺の大仏が西暦752年にこの「水銀アマルガム法」で金めっきがされたと伝えられています。
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1-2. めっきの語源
"めっき" という言葉は、上記「水銀アマルガム法」で金が水銀に溶けて滅したように見えることから「滅金(めっき)」と言うようになったと言われています。
めっきは、漢字で「鍍金」、カタカナで「メッキ」と一般に文書等に表記されていますが、外来語ではなく日本語なので正しくは「めっき」、もしくは「鍍金」が正しい表現といえます。
めっきについてもっと詳しく知りたい方は、本ホームページの参考資料とさせていただいた末項「参考文献」を参照していただきたい。 |
1-3.表面処理とめっき
表面処理とは、金属、樹脂、セラミックをはじめとする多くの個体表面に何らかの方法により改質を行い美観を与えたり、特性、機能性を付加することをいい、めっきは、この表面処理方法の一つといえます。 めっきは、プレスや機械加工のようにその場で製品の良し悪しがある程度判断できるものと異なりその製品、素材、目的のめっきに適した工程をえてめっき製品となり、その製品の使用段階でないと製品の良し悪しが判断できないため、「特殊工程」と呼ばれます。
めっきは、金属、樹脂、セラミック等をはじめとする素材(製品)の上に薄い金属又は樹脂やセラミック等との複合皮膜を析出させることにより次のようなさまざまな特性、機能をもたせることができます。
(1)美観(装飾) (めっき金属等により色々な色や表情を付加できる)
(2)硬さ (硬い、柔らかい)
(3)耐磨耗性 (磨り減りにくい)
(4)耐変色性 (色が変わりにくい)
(5)耐食性 (さびにくい)
(6)電気(熱)伝導性 (電気(熱)を通しやすい)
(7)耐熱性 (高温にも耐える)
(8)摺動性 (すべりをよくする)
(9)撥水性 (水をよくはじく)
(10)ぬれ性 (液体のぬれをよくする)
(11)はんだぬれ性 (はんだ濡れ・ボンディング性をよくする)
(12)シール性 (機密性をもたす)
(13)電磁波シールド特性 (有害な電磁波から保護する)
(14)反射特性 (目的とする反射等を得る)
2.身近なめっき製品
我々の身近なめっき製品としてはアクセサリー(装飾品)をはじめホビー用品、食器、家具、ドアノブ、 ボタン、トラックのバンパー、ねじ、車、オートバイ、電気・電子部品、パソコン、携帯電話、船舶・宇宙・航空機部品からミサイルまでめっきがなければ我々の生活が成り立たないほどあらゆるものにめっきが利用されています。
3.めっきの種類とめっき方法
めっきには、上記で述べた特性、機能を付加するために亜鉛、カドミウム、ニッケル、コバルト、クロム、すず、鉛、半田、金、銀、銅、ロジウム等の単体金属めっきをはじめ、これらの合金めっき、これらを多層に組み合わせた多層めっき、テフロンや窒化ホウ素、ダイヤモンド等の粉体をめっき金属中に分散させた複合(コンポジット)めっき等が考え出されています。
また、一般のめっきとは異なるが、表面処理として、酸化皮膜を形成させて色をつける、耐食性を上げるなどの目的で陽極酸化処理(アルマイトを含む)、不動態化処理(パシペーション)また、研磨、化成処理、電着塗装、浸炭、窒化、溶射、溶融めっき、拡散めっき、乾式めっき等さまざまな産業に対応した技術が開発され、組み合わされて利用されております。
めっき工程は、めっき種、めっき方法、素材の数だけあると言え、すべてをご紹介するのは不可能ですが基本的な作業の流れは亜鉛めっきを例に
「表面処理薬品・めっき材料 」に紹介しております。
3-1.乾式と湿式めっき
めっき方法には、大きく分けて2つに分類されます、真空中など非水溶液中で表面処理を行なう乾式めっきと、めっきする金属の溶けた溶液中等で表面処理を行なう湿式めっきとがあり、下記のような内容に解釈されています。
(1) 乾式めっき法
a.真空蒸着
真空中でめっき金属を電子ビーム、抵抗加熱等を用い加熱蒸発させ物理化学的に皮膜を形成させる。
b.物理蒸着(PVD)
イオンプレーティング(スパッタリング)等、低、高真空又は希薄ガス中(窒素、アルゴン、反応性ガス等)で製品に印加電圧をかけ放電(電子ビーム)、抵抗加熱等を用いイオン化しためっき金属を加速衝突させることにより皮膜を形成させる。
c.化学蒸着(CVD)
発性金属化合物と還元性ガスとの加熱分解、水素還元反応により金属皮膜等を形成させる。
(2)湿式めっき法
a.電気めつき
個体表面に、外部電源を用いてめっきする金属等を電気化学的に析出(電着)させる。
b.無電解めっき
外部電源を用いずにめっき金属を化学的に還元析出させる。
c.化成処理
化学的、あるいは電気化学的に個体表面に安定な化合物(りん酸塩皮膜処理、クロメ-ト処理等)を生成させる。
(3)その他
乾式法に入るが、金属粉体を機械的、物理的に圧着、打ち込むメカニカルプレーティング、溶融金属を表面にコーティングする溶融亜鉛めっき(半田付けも同じ方法)、紛体を高温ガス、プラズマ中で溶融し吹き付ける溶射、金属薄膜や、粉体、気体を高温で熱拡散させたり、高圧で接合する方法、また塗装を含めたさまざまな表面処理方法がある。
4.めっき設備
4-1.めっき設備
めっき設備は、本来素材のセッティングから始まり脱脂、前処理、めっき、後処理、乾燥にいたるすべてのめっき工程に使用される設備が含まれるが、実際のめっきを行う設備を中心に解説を行っていく。
めっき等に使用される設備は、その対象となる製品の大きさ(サイズ)、形状、重量、材質、数量、目的とする表面処理、めっき種等により異なり、大型の自動ラインでは工場の設置場所によっても工夫が必要となる場合がある。
ニッケルめっきを例にとるとめっき設備の基本的な構成は次の図のようになる。
4-1-1.電気めっき設備
電気めっきは、めっき槽(ポリ塩化ビニール(PVC)、ポリプロピレン(PP)、ステンレス(SUS)、繊維強化プラスチック(FRP)、ガラス等でできている)にめっきする金属を薬品で溶解しためっき液中で、整流器(ほとんどは直流電源、特殊なものはパルス、交流を使用)を用い品物をマイナス極(カソード、陰極とも言う)、めっきする金属と同じ金属板 (めっき種によっては不溶性電極として白金/チタン、カーボン、鉛等)をプラス極(アノード、陽極とも言う)として使用し、めっきが行われる。
設備としては、整流器の他、揺動装置、ろ過機、攪拌機、ヒーター、チラー(冷却機)、温度調節機等があり、めっき薬品や使用条件により使い分けられる。
また、ジクと呼ばれる品物を固定しめっき液中で電気を流すための道具が使用され、単純な棒を曲げたもの(引掛け)から、ばねを利用しはさむ、はじく等により品物を固定するものや、バレルと言う回転式の容器の中に電極(リード線)を入れたもの、電極ローラーやリール状の長い物を巻き取る等自動搬送設備と一体になったもの等がある。
図1.電気ニッケルめっき設備 (手動ライン基本構成例)
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表面処理の中で整流器等の電源を利用し、電解を行うことで目的の処理を行うもの(電解脱脂、電解酸洗浄、電解エッチング、陽極酸化(アルマイト)、電解研磨等)も基本的には上記と同様の設備構成で行われている。
4-1-2.無電解めっき設備
無電解めっきは、基本的には電気めっきで使用される設備(揺動装置、ろ過機、攪拌機、ヒーター(蒸気ボイラー)、チラー(冷却機)、温度調節機等)が使用されるが、無電解めっき液は化学反応により製品にめっき金属を還元析出させるため整流器のような電源を使用し品物に電流を流す必要はなく洗浄し表面を活性化させた品物(プラスチック等の非導電性材料はパラジウム等の金属触媒付与により活性化する)をめっき液に浸漬すればめっきが行われる。
ただし、化学反応を利用するためめっき液の分解や、製品だけでなくめっき槽へもめっきが着きやすいことから、無電解ニッケルの場合ステンレス(SUS316等)を使用し、槽にめっきが付きにくくするため析出防止電源を用い、槽をプラス、めっき液中にマイナス極とした小さな電極棒を入れめっきの析出を防止している。
無電解めっき設備・ジクは上記の特性により、工程への液分解を引起す原因となる異物、前処理薬品等の混入を防止するとともに液管理設備、適切な素材の選定、使用環境に注意しめっきが行われている。
図2.無電解ニッケルめっき設備 (手動ライン基本構成例)
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4-1-3.引掛けジグとバレル
上記で解説した代表的な引掛けジグとバレルの種類、特徴を表にまとめ紹介する。
引掛けジグ
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種 類
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特 徴
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外 観 (例)
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重力式 |
一本掛け(重力式接点)
材質:銅、ステンレス、チタン、鉄等。 用途によりコーティングされているものとされていないものがある。
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品物やジグの自重を利用し接点を確保する方式、単品物、大きな製品、重量物等に有効である。
軽いもの、細かい製品、量産物に向かない。
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多段タイプ(重力式接点)
多段に引掛け部を配置したタイプ。
重力式、ばね式とも凧ににた形のものは業界用語で別名「たこ」と呼ばれ、梯子状のものは「はしご」と呼ばれることもある。
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多段式のため長いものに有効で、小物は多数処理ができる。
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多枝タイプ(重力式接点)
多枝に引掛け部を配置したタイプ。
上記の業界用語「たこ」と異なり海の「蛸」に似たジグもある。また、重力式、ばね式ともムカデににた形のものは別名「ムカデ」とも呼ばれる。
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多枝式のため形状により小物から比較的大きなものを多数処理ができる。
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ばね式 |
多段タイプ(ばね式接点)
多段にばね式接点を配置したタイプ。
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多段式のため長いものに有効で、小物は多数処理ができ、ばねにより液攪拌の激しいめっきにおいて品物の落下をふせぎ接触不良による不具合防止に有効である。
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多枝タイプ(ばね式接点)
多枝にばね式接点を配置したタイプ。
ばねには品物をはさむタイプ、はじくタイプ、かぶせるタイプ等がある。
品物の脱着にワンタッチのものもある。
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多枝式のため形状により小物から比較的大きなものを多数処理ができる。
上記多段式と同様の利点がある。
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かご
アミ式
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かご(アミ)式ジグ
かごやアミを利用したジグ。
かご等は前処理の脱脂や酸洗浄等に利用されるが、電気めっき、無電解めっきにも使用される。
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かごは板状、ねじ部品等量産物に、アミは非常に小さな小ロット品に有効である。
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その他 |
その他特殊ジグ・設備
トレー方式、シート方式、クリップ方式、型はめ込み式、ノズル式、等めっき装置と一体となったもの等さまざまなジグがある。
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トレー方式、シート方式、クリップ方式は、シート状の製品、(プリント基盤、ICリードフレーム等の小ロット品)に使用されることが多い。
型はめ込み式、ノズル式等は部分的なめっきを行う場合に利用される。 |
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バレル
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種 類
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特 徴
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外 観 (例)
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1 |
水平型バレル
(振動バレル)
バレルの形状は丸型、六角形、八角形等があり材質にはアクリル、PVC、PP等があり表面には液抜けの穴、スリット等が開けられている。
細かい品物用にPVC、PP等のネットを張ったものもある。
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水平状態でバレルを回転させながらめっきを行う。ねじ部品等の小物の量産に適している。
品物のバレルや品物同士への密着を防止するための振動や品物の移動、衝撃を与える機構のものもある。
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2 |
傾斜型バレル
水平型バレルはほとんどが密閉タイプのものだが傾斜型バレルは上部開放型が多く使用されている。
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傾斜状態でバレルを回転させながらめっきを行う。小物の少量生産に適している。
開口部があるものと、ないものがある。
水平型に似た偏心傾斜型バレルでは回転しながら品物は左右に移動し混ざり合う。
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4-1-4.自動めっき装置 (搬送機、半自動機)
めっき加工における量産化では、製品の数量、重量、形状に対応した上記ジグやバレルと品質の安定化、人件費の削減によるコストダウンを目的に自動化が検討される。
自動めっき装置には対象とする製品にあった搬送方法、めっき方法が選択され、モーターやポンプ、センサー、インバーター、コンピューター・シーケンス等の制御機器と組み合わされ使用される。 下記に代表的な搬送方式、めっき装置等の例を紹介する。
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天井走行式
搬送キャリアが天井に固定されたレールの上を走るタイプで槽のレイアウト、止まる位置を自由に設定でき、後から工程の変更、追加も可能。
コンピュータによるプログラム制御と組み合わせで処理時間等の設定を任意に決めることができ小物から大型部品に至る汎用性の高い装置。
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門型走行式
搬送キャリアが槽をはさみ、槽の横又はやや上部に設置されたレールの上を走るタイプで長尺物、大型部品に適している。
天井走行式同様コンピュータによるプログラム制御と組み合わせで処理時間等の設定を任意に決めることができる。
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片持走行式
搬送キャリア、レールが槽の横に設置されたタイプでキャリアが床移動するもの、壁を移動するもの等があり、小型、軽量部品の処理に適している、キャリアが槽の上を走らないため処理槽へのゴミ、油等の落下が少ない利点がある。
天井走行式同様コンピュータによるプログラム制御と組み合わせで処理時間等の設定を任意に決めることができる。
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プッシャー式
エレベータ式
円周状に処理槽を設置し引掛けやバレルを別の移動ジクに設置し順送りに処理を行っていく。 昇降装置は工程中一部を除き一体となっており一斉に昇降を行い、トランスファーにより移動を行う。プッシャー式ではTバー(ハンガー)と呼ばれるジグに引掛け等をセットし通電レール上を押出すようにハンガーを移動させていく。
設置面積あたりの生産性は最大で,大量生産に適する。
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ローラーコンベア式
搬送をローラーコンベアによって行う方式で、プリント基板等の板状製品のエッチング、めっき、洗浄等の連続処理に適する。
各工程では、下からの噴流、上からのシャワー等を利用し脱脂から乾燥までの連続処理を行えるが処理時間の調整には、各工程の長さの検討、ローラー搬送速度等の調整が必要である。
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ロボット式
搬送機、エアーシリンダー、インバータ、回転装置、センサー、コンピュータ制御機器等を利用し、人の手作業の動作を機械に行わせることができる装置。
小物部品のワークの移動、セット、前処理、めっき、後処理に利用されている。
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その他
(部分めっき装置)
めっきは、全面めっきと必要な所だけめっきを行う部分めっきとがあるが、少量生産や比較的大きな範囲の部分めっきでは、マスキング剤(液体(樹脂・ゴム系))、マスキングテープ等により行われる場合が多い。
しかし、特殊な形状、高精度を要する場合、量産品の部分めっきには下記に紹介するような装置が利用されている。
@ リールtoリール(連続式)
リールに巻いたテープ又は線状の製品の前処理、めっき、後処理、乾燥、巻き取りを連続に行う装置。
部分めっき、ストライプめっきが可能。
A スポットめっき(バッチ式)
短尺物のICリードフレーム、基盤等の板状部品の部分めっきに適しローラーコンベアー式搬送装置と組合わせて連続使用も可能。
B 回転式(セレクトロン、筆めっき方式)
整流器、回転装置、処理液循環ポンプ、ハンドル等からなり、ローラーシャフト等の大型円筒状部品の全面めっき、部分めっき、部分補修を行う。
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B回転式
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4-1-5.付帯設備
めっき工場で使用される付帯設備としては次のようなものがある。
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名 称
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目 的
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1 |
温度調節機・温度計 |
めっき液等の温度管理 |
2 |
整流器、電源装置 |
めっき及び制御機器電源 |
3 |
ろ過機 |
めっき液等のろ過 |
4 |
チラー(冷却装置)、熱交換器 |
めっき液等の冷却 |
5 |
アノードケース、アノードバッグ |
陽極板の設置ジグ、アノードスラッジ防止 |
6 |
電気ヒーター、ボイラー、熱交換器 |
めっき液等の加熱 |
7 |
攪拌機、エアープロワー |
めっき液等の攪拌 |
8 |
揺動装置、振動装置 |
めっき製品の揺動、振動 |
9 |
タイマー、センサー、制御機器 |
めっき時間、工程・自動機の管理 |
10 |
監視、測定機器 |
めっき条件・品質の記録と管理 |
11 |
超音波発生器 |
めっき、前処理・後処理の洗浄 |
12 |
乾燥機、ベーキング炉 |
めっき製品の乾燥、水素脆性除去 |
13 |
熱処理炉 |
めっき製品の応力除去、硬化、拡散 |
14 |
液管理装置 |
めっき液等の自動管理 |
15 |
純水再生装置 |
めっき液等の補充水、洗浄水の製造 |
16 |
排気装置、排気洗浄装置 |
めっき工程から排出される有害ガスの除去 |
17 |
排水処理装置 |
めっき工程から排出される排水の処理 |
18 |
検査・試験機器(検査・試験機器参照) |
めっきの品質確認、工程管理等 |
5.参考文献
下記に、このホームページで紹介している情報の参考とさせていただいた、表面処理(めっき等)に関する参考文献等を紹介してあります、詳細な情報を知りたい方は下記「参考文献」をクリックしてください。
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城南電化情報委員会
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